レポート

(第1部)コロナウイルス緊急事態宣言を受けた長崎への提言―コロナ後の世界に向けて

2020年05月18日

1. コロナウイルス感染の現状と見通し
2020年2月以降、日本でもコロナウイルス感染が広がりつつあり、今のところ出口が見えていません。今年予定されていた東京オリンピックも延期となりました。コロナウイルス感染の現状から、将来を見通した場合、日本や長崎県経済にどのような影響が及ぶのかを検討し、その影響を緩和する政策の在り方を提案したいと思います。また、これは同時に民間企業の経営にも役立つと考えます。

(1) 二つのシナリオ
 コロナウイルスの感染について、二つのシナリオを想定することができます。すなわち、①2020年4-6月までに感染がピークアウトする場合、②2020年9-12月までに感染がピークアウトする場合、を想定することができます。中国は2020年1-3月で一次感染がピークアウト、欧州も1-3月で一次感染がピークアウト、米国は2-4月に一次感染がピークアウトして、一部州では商業活動等が部分緩和されています。これらのことから、日本の場合、3月頃から東京都を中心に感染が拡大してきたので、4-6月に一次感染のピークを付ける可能性があると考えられます。一方、1918-1920年のスペイン風邪の流行時のように、感染が一旦終息に向かっても、その翌年以降、再度感染が広がることも考えられます。そこで、②ほぼ1年がかりで一次感染のピークを付けて2021年1-3月には終息する場合を想定しておく必要があると考えます。

(2) 今後の見通し
① IMFによる経済予測
IMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し」(2020年4月)によれば、新型コロナウイルス感染症の影響で、世界経済は、2019年の2.9%から2020年の△3.0%とマイナス成長に落ち込み、2021年は5.8%成長に回復するという予測です。日本については、2019年の0.7%から2020年の△5.2%と大きなマイナス成長に落ち込み、2021年は3.0%%成長に回復する予測です(第1表)。
② 二つのシナリオによる予測
上記(1)二つのシナリオの各場合の日本経済への影響を見ると、次のようになると考えられます。
A.2020年4-6月までに感染がピークアウトする場合
 この場合は、IMFによる経済予測の約半分程度の影響となり(ピークアウトから平常時に回復するのに少なくとも約半年かかる)、2020年の経済成長は△2.6%程度になると思われます。
B.2020年9-12月までに感染がピークアウトする場合
 この場合は、IMFによる経済予測の約3/4程度の影響となり、2020年の経済成長は△3.9%程度の影響となると考えられます。
 いずれの場合も、IMFの予測では、2021年の世界経済は回復するという予測ですが、中国・アメリカ・欧州それぞれの需要や生産体制回復の遅れ、国際的なサプライチェーンの再編成等から、V字回復するとは限らず、U字回復となる可能性が高いと思われます。また、感染の第二波や、金融危機への発展が起こった場合には、L字回復しかできなくなる可能性すらあると考えられます。

(3) コロナウイルス危機の性格
 今回のコロナウイルス感染のリスクは、①経済活動の休止による需要・供給の喪失リスク、②需要喪失による企業経営悪化・金融仲介機能の悪化リスク、③各国の数次にわたる支援策(財政拡張政策)の実施による財政悪化リスク、の3つに分けられると考えられます。
① 経済活動の休止による需要・供給の喪失リスク
 上記(1)(2)で述べてきた、1年以内の経済活動の休止による需要の喪失と、それに見合う生産の休止により、需要面では個人消費の大幅減少・設備投資の減少、生産面では製造業・非製造業の生産休止と失業者の増加、所得面では失業者の増加・賃金抑制による収入・所得の減少が起こるリスクが生じます。ただ、これにより、需要喪失・供給の休止は一時的な減少で、生産機能そのものが失われるわけではありません。コロナウイルス感染者数・死者数の増加がピークアウトし、消費活動・生産活動がいずれ戻ると考えられます。
 ここで注意するべきは、需要の回復は速くても、生産面の回復は、一旦休止した工場・事務所の再開に多少の時間がかかること、国際的なサプライチェーンが他国にシフトした場合は、生産活動回復までに多少の時間がかかるという点です。
② 需要喪失による企業経営悪化・金融仲介機能の悪化リスク
 上記①のように、感染がなかなか終息せず、1年以内の経済活動の休止にとどまらず、影響が複数年に及んだ場合、需要・生産の休止が、企業・個人の資金繰りの悪化を招き、企業の経営破綻や借入返済不能、個人の住宅等のローンの焦げ付き等を通じて、金融機関の貸し出しが不良債権化し、金融危機に発展することが考えられます。
③ 各国の数次にわたる支援策(財政拡張政策)の実施による財政悪化リスク
 さらに、企業・個人の不良債権の処理に対し、各国政府が経営状態の悪化した金融機関を支援したり、企業・個人に直接支援策を打ち出す場合、多くは財政拡張政策となるため、財政赤字の拡大・国債の増発を招き、財政悪化リスクに発展することが十分にあり得ます。2007-2008年のサブプライム問題・リーマンショック後、世界景気は回復してきましたが、その主たる要因は、継続的な金融緩和と、財政拡張政策によるところが大きかったと考えられます。特に、産油国・新興国の中で、財政が脆弱な国において、財政赤字の拡大、外貨準備の減少等を招く惧れが大きいと思われます。
 今回のコロナショック時と2007-2008年のリーマンショック時を比較すると、(第2表)のようになります。


2. コロナウイルス感染の経済・社会影響
 次に、コロナウイルス感染の経済・社会への影響を整理し、併せて、長崎県に及ぼす影響について、短期的影響と中長期的影響に分けて考えてみたいと思います。

(1) 経済・社会への影響
① 短期的影響(経済・経営)
 コロナウイルス感染が6カ月程度で拡大傾向が続き、または終息には向かっていても暫く新規感染者が増えている場合には、非常時対応が必要になります。
A.経済:経済面では、個人消費をはじめとした需要の激減から、企業の売り上げ減・生産減・個人の収入減から、失業増を招き、物価的には、デフレ深化を引き起こす可能性が大きいと思われます。
B.経営:経営面では、個人営業・企業とも収支悪化から、資金繰りひっ迫を招き、一部に金融仲介機能の低下がみられるようになります。また、経営状態が二極分化していきます。
C.医療:感染が広がるだけでなく、重症者が増えることにより、医療機関への受診者が増え、地域医療への負担が大きくなっていきます。重症者が急激に増える事態となった際には、九州近県を含めた医療連携も必要になる可能性もあります。「病院船」の検討も進めるべきであると思います(後述)。
② 中長期的影響(技術・経済・経営・社会)
 コロナウイルス感染が暫く続き、これと共生する社会に移行する場合、国民の意識改革によって、技術のイノベーション、経済・産業構造の変革、経営改革、社会のパラダイムシフト等、経済社会が根底から変わる可能性があります。
A.技術:会合・医療・教育等、実際に会って経済・社会活動を行っていたサービス業等は、実際に会わなくてもサービス提供ができるようにするため、デジタル化の進展が予測されます。
B.経済:短期的な需要減少が持続する場合、景気後退の長期化・デフレを招き、財政赤字拡大・国債発行等、中長期的には、経済の構造的影響が大きくなる可能性があると考えられます。また、グローバリゼーションが進展し、世界貿易量や国際交流が拡大してきた状態から一転し、「経済ブロック化」が進むことが懸念されます。これが、移民排除や平和への脅威につながる可能性があると考えます。
C.経営:需要減少が一定期間持続した場合、企業経営が続けられる企業と、そうでない企業に二極分化が続く可能性があり、業界再編を引き起こす可能性が大きくなると考えられます。また、企業経営面からは、サプライチェーンの多様化(国内回帰を含む)を図り、BCP(事業継続計画)を感染症についても常に考えておく必要があります。実際、民間企業には、ISO22301事業継続マネジメントシステムの認証取得を通じて、感染症対策を「事業継続力強化計画」に盛り込んでいるところもあります。
D.社会:感染を抑制するために、中長期にわたり、一定の社会的距離の確保を維持することが必要があると考えられます。これが、社会的には国内の移動制限や、コミュニテイ間の交流の制約となる可能性が大きく、国内での社会の分断を招く可能性もあります。さらに、世界的な人流・物流の制約から、国際的な活動が制約を受け、世界分断につながる可能性も否定できません。

(2)長崎県に及ぼす経済的・社会的影響
① 長崎県の経済・産業構造の特徴
長崎県の経済規模(県内総生産)は、平成29年度で、4兆5,758億円(名目)、そのうち第一次産業1,410億円(3.1%)、第二次産業1兆1,123億円(24.3%)、第三次産業3兆2,965億円(73.0%)でした(長崎県統計課「長崎県県民経済計算」)。他県と比較して、製造業比率が17.3%と低いですが、10年前(2017年度、15.7%)に比べると比率は高まっています。これは、地場産業の生産額拡大・企業誘致の増加等が主因と考えられます。また、第三次産業において大きな部分を占める卸売・小売業は、4,518億円と、10年前の4,523億円より縮小、観光業の重要な部分を占める宿泊・飲食サービス業は、1,371億円と、10年前の1,363億円よりわずかに増加している程度です。これに対し、第三次産業で、そのシェアを拡大しているのは、保健衛生・社会事業の5,331億円(11.7%)で、10年前の4,579億円(10.0%)より高まっています。ただし、観光関連業に関しては、平成30年度以降もインバウンド観光等の増加により、大幅に生産額が増加している可能性があります。長崎県の観光消費額は、平成30年度3,779億円で、平成29年度3,765億円より0.4%とわずかに増加しています(「長崎県観光統計))。
このように、長崎県の経済・産業構造は、観光業を含むサービス業の比率が高く、観光業が地場産業に経済波及する構造となっているものの、近年では、企業誘致の進展や地場製造業の生産額拡大などにより、製造業の比率が高まりつつあるということができます。
② 経済的・社会的影響
今回のコロナウイルス感染拡大に伴う、経済活動の自粛などにより、県内生産額の減少が予測されます。冒頭述べた「A.2020年4-6月までに感染がピークアウトする場合」で、観光消費額が約半減(影響期間:4-12月)、製造業生産額が半減(影響期間:4-6月分)するとして、それぞれ△1,425億円、△975億円のマイナス影響が出る可能性があり、合計で2,400億円、県内総生産の5.2%の減少となる可能性があります(第3表)。

ここで、観光業に関しては、コロナウイルス感染がピークアウトした場合、日帰り旅行の回復は早いと思われますが、関東・関西・中国地方等からの旅行者の予約が急速に戻るとは限らないことに注意する必要があると思われます。まして、インバウンド観光が回復するには、日中両政府の方針にもよりますが、1年程度の時間がかかるものと考えられます。この点に関し、星野リゾート・星野代表は、「完全復調は1年か1年半かかる」と予測しています(Nikkei Business2020.4.6)。この点で、観光業の経済波及効果が大きいだけに、そのマイナスの影響も出やすいことがよく解ります。
勿論、これらの影響額は、コロナウイルスの第二波が来た場合や、国民の「新しい生活様式」として、経済活動を大きく変容させる場合には、大きくなることが想定されます。

(3) 影響への対策
次に、こうした経済・社会への影響への対策を考えてみたいと思います。すでに、政府からは、国民全員への10万円支給、売り上げ半減以下の企業への持続化給付金等、また、各市町村でも独自の支援策を発表しています。

①短期的対策
 コロナウイルス感染拡大に伴う、需要の急速な減少等の経済社会影響を当面補うため、個人・企業向けの対策が急務で、金額よりもスピードが求められると思います。これは、事業主等の経営難を緩和することにより、自殺を防止する効果もあります(「感染による死か、経営難による死か」の問題)。
(ア)企業向け対策:全国に緊急事態宣言が出され、特定産業・業種への事業継続支援・減収対策が行われることになりました。企業にとっては、売り上げの減収対策の側面と、家賃(テナント料)支援の側面があります。特に大都市の飲食店等の事業者にとっては、後者の側面が強くなります。
(イ)個人向け対策:すでに収入補填(現金支給)が行われていますが、今後、景気が後退し、失業者が増加するようになれば、減税・課税猶予等が検討されることも考えられます。さらに、不況が長引いて失業率が上がる場合などでは、将来的にベーシック・インカム制度導入も検討される可能性があります。
(ウ)総合的経済対策:日銀による金融緩和(上限を定めない国債購入、社債・CP購入)が公表されており、現状の事業規模117兆円の財政拡大の他、景気回復度合いに応じて、各種減税も検討される可能性があると思われます。今回の金融緩和の大きな特徴は、国債購入によるマクロ金融緩和だけでなく、個々の企業の社債・CP購入という、「信用補完」まで踏み込んでいる点です(FRBも同様)。

②中長期的対策
 短期的対策も重要ですが、日本・長崎県の経済社会の大きな変化に対応するための中長期対策がより重要であると思います。これまでは、経済社会的に、「コロナウイルス感染後は元に戻る」と考えられてきましたが、実際には、「人類がコロナウイルスと共生する社会」が形成されると考えられます。これは、ペスト、スペイン風邪(1918-1920年)、SARS等、多くの感染症で起こってきた歴史です。
(ア)技術:これまで、日本は「Society5.0」の実現に向けて、技術革新(イノベーション)を前提とした経済社会づくりを進めてきましたが、なかなか進展しにくい面がありました。しかし、今回のコロナウイルス感染を機に、そのスピードが加速して、実現時期が早まる可能性が高いと考えます。コロナウイルス感染の広がりに対応するために、必ずしも人間が集まらなくても一定の目的を達することができる、リモート化対応(遠隔診断・オンライン会議・電子決済・オンライン教育等)を機に、5G/AI/IoT/ロボット導入等が進展すると思われます。特に、長崎県他の地方においては、元々大都市部よりも早く「少子化・高齢化」が進展するため、また、離島・半島の住民へのサービス確保の観点から先端技術導入が求められてきましたが、それに加えて、コロナウイルス感染のような、人が一定の距離を確保しなければならなくなる非常時発生に備えて、急速に進展させる必要が生じます。
(イ)経済・産業:経済的に需要が急激かつ持続的に失われたため、IMFの予測によれば、国内総生産が5.2%程度減少することが考えられますが、さらに、失業者の増加、生産面の減少、デフレ進行により、経済規模自体のダウンサイジングが起こる可能性があります。大企業については、1-1.5年間の景気後退を乗り切れる可能性は高いですが、中小企業の売り上げ減少は、経営難を招く恐れがあります。地方においても、地場産業を支える中小企業への各種支援を急ぐ必要があります。このような、需要減に伴う生産減少を中長期的に解決するためには、ポリシーミックスとしては、金融緩和・財政拡張政策が必要となります。思い切った内需拡大策、現金支給か、減税・交付金支給が個人には効果的で、企業には雇用調整助成金のような雇用支援、法人減税が効果的です。さらに長期的には、コロナウイルス感染拡大以前に戻すために、外需拡大が必要になりますが、貿易拡大政策(国際協調・物産流通拡大)・人的交流拡大政策(観光)を図ることが不可欠で、一国のみで解決できる方策ではない可能性があります。国内・地域経済にとっては、産業構造の変革・デジタル/データベース経済への転換を図っていくことが必要です。
(ウ)経営:企業経営については、経済・産業を強化させるためにも、先端技術導入によるイノベーションの加速化、売り上げ・利益を増加するために企業成長を促進する業態転換等経営戦略の転換、戦略を踏まえた経営基盤強化(M&A,業界再編)等を実現していくことが必要です。また、中小企業・零細企業にとっては、次世代への事業承継が事業継続の最低条件となり、今回のような経営環境激変時に、金融機関・商工会議所・商工会などによる事業承継計画づくり支援が大きな役割を担うことになると考えられます。
(エ)社会:コロナウイルス感染によって、国際社会・国内社会ともに、これまでとは異なる社会変革が進んでいく可能性が高いと考えられます。国際社会においては、元々、米中に見られるように、保護主義的な風潮が起こりかねなかったのですが、コロナウイルス感染後も、米中、米欧等で、グローバリゼーションの見直し(保護主義化)、食料・エネルギーの確保による保護貿易化等が起こる可能性が大きいと思われます。国内や地域社会においても、対人コミュニケーションの制約から、社会の分断が起こることが考えられ、その回避や市民協働の推進が求められるようになると考えます。

<続きは第2部をご覧ください>

  • 【日時】
  • 2020年05月18日

菊森 淳文

理事長

菊森 淳文

きくもり あつふみ


第1表


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