コラム

「食料価格と離島ブランド」"Food Prices and Remote Island Brands"(NBCラジオ6/7放送分)

2022年06月08日

食品価格が平年比大きく上がってきています。典型的なのが穀物価格で、小麦が5年前には150ドル/トンでしたが、今年5月には400ドル程度、トウモロコシは同じく120ドル/トンから310ドル/トン程度に価格が2倍以上に上がっています。これらの原因の一つには、ロシアのウクライナ侵攻がありますが、その前の2021年あたりから上昇基調にありました。

食料の中でも、小麦は世界中でパンや、パスタなどに使われている主食ですから、影響が大きいです。日本のスーパーのパンやラーメンの価格も上昇基調にあり、大手ラーメン、うどんチェーンでも量の減少か、価格上昇で対応しています。特に、小麦は輸入に多くを頼っており、為替レートが円安になったことも価格上昇を招いています。

次に、穀物ほどではありませんが、長崎・佐賀の強みである、肉や魚の価格も上がってきています。農水省「食品価格動向調査」によれば、R4年5月、国産牛肉(冷蔵ロース)で平年比3%上昇の839円/100g、輸入牛肉(冷蔵ロース)で平年比10%上昇の321円/100gと輸入ものの方が価格上昇率が大きくなっています。水産品の代表であるマグロで平年比12%上昇の464円/100g、ぶりで平年比9%上昇の283円/100gと、いずれも上昇しています。

 このような食品価格の上昇は、地域経済にどのような影響を及ぼすかですが、消費者の視点と、生産者の視点ではとらえ方が異なります。

消費者の視点では、食品価格が上がってくることは、可処分所得の減少につながりますから、実質個人消費が減少して、景気が悪化することが懸念されます。これが長引けば、物価高の景気後退を招き、スタグフレーションに陥ることも覚悟しておかなければなりません。特に影響を受けるのは加工品で、R2年の価格と比べて、食用油(キャノーラ油)で30%、マヨネーズで17%値上がりしています。一方、かまぼこは同5%上昇にとどまっていますが、今後値上げされる可能性もあります。

生産者の視点では、消費が落ち込まないように、価格上昇を緩やかにしたいと考えてきましたが、原材料価格が今後も上がってくると、値上げに向かうことがありうると思います。特に食品は、生活必需品であるため、肉・魚・野菜など素材価格は需給で決まるので、さらに値上がりする可能性があります。ただ、生産者にとって取り扱い金額が増加することは望ましいので、地域経済も拡大することになります。

長崎県・佐賀県は「食材の宝庫」ですから、食品価格が上がることは、好ましい一面もあります。食品価格は緩やかに上昇しても、賃金も上昇していけば、生活に困ることは少ないのですが、急速に物価が上昇することは望ましくありません。賃金上昇が追い付いて行かないことが多いからです。この地域としては、食品価格の上昇を、うまく地域経済の拡大に活かして行くことができると思います。長崎牛や佐賀牛などは需要が底堅いので、高値で取引されています。トウモロコシ等の飼料は多くを輸入に依存しているため、地元の飼料に切り替えていけば、畜産農家も利幅を大きくすることができます。魚も、現時点では、磯焼けの影響などにより、産地の生産が減少して、東京・豊洲市場の取扱高は減少していますが、価格の上昇により、取り扱い金額は増加しています。そして、肉・魚に共通した特徴は、長崎県や佐賀県の離島・僻地にとって、戦略商品であるという点です。

肉は、五島牛、壱岐牛など、離島の繁殖農家にとって重要な商品です。また、魚は離島全般にとって生活の基盤となっています。今後必要なことは、これらの戦略商品を効果的に大都市の消費者に届けることです。すでに「お魚サブスク」のような試みが行われています。また、五島市の牛・魚・ワインなどを、東京の老舗チェーンが「五島ブランド」として料理を売り出すために、産地直送をする例も見られます。産直は、レストランチェーン、生産者・卸売り双方にとって、安定価格で食品を取引できるので、メリットが大きいと思います。このような動きが出てくると、離島のブランド化により、食のブランド品として、大都市に販売を拡大することに大きな商機が生まれます。

  • 【日時】
  • 2022年06月08日

菊森 淳文

理事長

菊森 淳文

きくもり あつふみ