政府の規制改革会議で、10月20日に、介護、保育、障碍者などの分野を超え、複数の福祉施設を一体的に運営できるようにする案が提起されました。複数の事業所のDX(デジタル・トランスフォーメーション)などを進めやすくして、より質の高いサービスを提供しやすくするために規制緩和を行うものです。
現在、高齢者福祉施設では、急速にICT導入が行われている施設と、そうでない施設が二極分化しています。高齢者福祉施設でDX化のメリットが大きいのは、①入所者さんの介護記録の自動化(音声入力や、AIを使った自動入力)、②室内の入所者管理(センサーによる転落など危険防止など、特に夜間の居室管理の集中化)、③入所者さんの施設内外でのモビリテイ確保(自動運転車いす)、④認知症入所者さんのAIによる意思の解読、など様々な活用が行われています。
高齢者福祉施設のDX化が進んでいる.最大のメリットは、福祉施設で働く人材の確保です。居室管理をセンサーなどによって自動化することにより、負担を大幅に軽減できるそうです。夜間勤務は体力的に厳しいので、高齢者福祉施設で働きたい人が少ないのが実情です。施設を作っても、人材が確保できなければ、運営できません。私が全国のモデルだと考えている、宮崎県都城市の社会福祉法人スマイリングパークでも、DX化を10年以上前から進めていて、介護人材獲得に役立っています。
政府の規制改革会議で「会議、保育、障碍者などの分野を超え、複数の福祉施設を一体的に運営できるようする案」が提起されましたが、実現したら、どのような影響があるのでしょうか。.現行制度では、介護などは施設や事業所ごとに管理者を置く必要がある。これまでは、複数の施設を、一つの社会福祉法人が所有することが出来ますが、施設をまたがって同一の管理者を置くことは難しいでした。今後は、隣接する複数の施設を同一の管理者が一体運営することを可能にする基準づくりを検討することになります。そのためには、安全性などサービスの質が落ちないような、一定の条件を設ける可能性があります。
複数の介護施設一人の管理者が管理することはわかりますが、介護と保育など、異なった種類の施設を一体として運営することにメリットはあるのでしょうか。実際の例をあげると、隣り合った介護施設と保育施設を一体で運営できれば、高齢者と子供が交流できる施設も設けやすくなる。幼老複合施設は、高齢者・子供双方にとって、異世代交流から学ぶことができるので、メリットが大きいと思います。
このような制度が導入されれば、介護人材・保育人材などの人材不足が緩和されます。今後は、介護施設にしても、保育施設にしても、経営の大規模化や協業による効率化が必要になります。複数の施設を管理したり、異なった種類の施設の業務を行える人材を育成できれば、人材面の効率化にもつながりますし、人材の多能化にもつながります。
では、介護施設のDX化と、人材の効率化とはどのように関係するのでしょうか。現時点では、介護施設のDX化が進みつつある状況ですが、保育・障碍者について、今後DX化が進んで行けば、共通したデータベース管理などが使えるので、ICT投資の重複を減らすこともできるようになる可能性があります。人的管理の効率化とDX化による業務の効率化の両方が進むことになります。福祉施設の人材獲得は、どの業種も楽ではありませんが、人材活用の複線化や、業務のDX化によって、労働の負担軽減、人材の獲得につなげることができるようになると考えます。
長崎県・佐賀県の離島では、本土よりもさらに人材獲得難に直面しています。離島は介護・保育人材が限られていて、介護人材として、外国人技能実習生を活用したり、移住者の人材獲得に注力しないと、人材確保が難しくなっています。特に、介護は、今後さらに要介護高齢者に増加が見込まれるので、対策を立てないと事業の維持が難しくなっていくと思います。